プロジェクトチーム報告書

更新日

報告書目次 (クリックすると該当ページに飛びます)

PDF版はこちらです。

カラス対策プロジェクトチーム報告書(PDF版)

テキスト版は、以下にあります。

報告にあたって

平成13年9月3日、かねてから問題を起こしていた東京のカラスに対する実効性のある対策を立案するため、カラス対策プロジェクトチームが発足しました。庁内公募によって、事務、土木、獣医、林業、造園、電気、薬剤、畜産、福祉技術の職種からなる総勢18名の職員が参加しています。
プロジェクトチームの活動は、カラスに関する知識を深めることから始まり、早朝のエサ取りの様子や夕方のねぐらの状況などを調査しながら、議論を重ねてきました。その間、都民のみなさんをはじめとするカラスに関心のある方々からカラス対策に対する貴重な意見やアイデアなどをいただいています。
東京は、都民や訪れる方々にとって生活しやすい都市でなければなりません。都市では、人々が安全、快適に暮らしていける環境が必要であり、そうした環境を作ろうとしてきた過程でごみの問題が生まれました。そして、そのごみに多くのカラスが群がり、人との間であつれきを起こしています。
東京のような都市は、ハシブトガラスが本来生息している森林の生態系とは異なった状況にあります。都市は都市なりの生態系を持っているのです。したがって本報告書では、人々がカラスと共存しながら、安全、快適に都市生活を営んでいくため、何をなすべきかということを考えています。人とカラスとがあつれきが生じない関係をつくることを目標にしています。
本報告書では、具体的な対策としてカラスの捕獲やカラスのエサとなる生ごみの減量などを提案しています。生ごみの管理が完璧にできれば、やがてカラスの数は減っていきます。しかし、多くのカラスが生息している現状を考えると、それはカラスの餓死を促すことになり、また東京以外の地域にカラスを増加させることにもつながります。さらに、エサである生ごみを断つことによって、カラスによる他の野生動物の捕食が急増することなども懸念されています。このようなことから、本報告書では、一つの対策のみを選択するのではなく、有効な対策を組み合わせていくべきと考え、様々な観点から対策を提案しています。
今回提案した対策は東京都だけで実施できるものばかりではありません。都民の方々はもちろん、区市町村や近県の自治体など、その内容によっては様々な実施主体が想定されます。この提案はカラス対策への協力の呼びかけの意味も持っていま

平成13年9月28日 カラス対策プロジェクトチーム

東京におけるカラスの現状

1-1 増え続ける都市部のカラス

東京の都市部ではカラスが増え続けているといわれています。
「東京都の鳥類繁殖状況調査」(平成10年3月 環境保全局)によると、カラスの繁殖は、1970年代には山手線の内側ではほとんど確認されませんでしたが、1990年代には多数確認されるようになりました。
カラスの生息数については、昭和60年の都市部のカラスは約7千羽と報告されています。(都市鳥研究会調査)。しかし、平成8年から平成11年の調査によると、23区内の大規模なねぐらにおけるカラスの生息数は、4年間で約1万4千羽から約2万1千羽へと増加しています(国立科学博物館附属自然教育園調査:図1)。さらに、平成13年の調査によると都内全域で3万羽から3万5千羽生息していると推計されています(日本野鳥の会東京支部等調査)。
東京の都市部でカラスが増え続ける最大の要因は、人が出す大量の生ごみです。一部のごみ集積所では、夜間収集やカラスよけネット等で防除していますが、すべての場所で徹底されているわけではありません。毎日排出される生ごみは、カラスにとっては格好のエサとなり、安定した栄養の供給源となっています。都市部のカラスは自然界で苦労してエサを捜すことなく、栄養価の高いエサに確実にありつけるのです。
次の要因としては、都市部にはカラスにとって安全な住環境があることです。まず、カラスの天敵となるオオタカ、フクロウなどの動物がほとんど存在しません。また、明治神宮や自然教育園など、夜間に人が出入りしないうっそうとした樹林は、集団で夜を過ごす習性のあるカラスにとって非常に都合のよいねぐらとなっています。さらに、カラスは針金ハンガーなどを使って、鉄塔やビルに巣作りをするなど、人が作り出したものを上手に利用しながら繁殖してきました。
このように、東京には生息に良好な環境があるため、カラスが増加してきたものと考えられます。

図1 生息数の調査(ねぐら入り調査)
国立科学博物館附属自然教育園「鳥類(カラス類を主とした)と
人との関わりに見られる都市環境の変化」の研究より作成

1-2 どのような問題が起こっているのか?

◆問題1 生態系に影響を与えているカラス

カラスが生態系に与える影響は深刻であるとの報告もあります。例えば、ここ数年でスズメやカイツブリの繁殖率が低下した地域や、これまで通年見られていたオナガが、めったに見られなくなった地域もあります。カラスは、もともと木の実や小動物を捕食する雑食性の鳥であり、野鳥の卵やひな等も捕食しています。都市部で増えた大量のカラスは、そのエサのすべてを生ごみから得ているわけではありません。このため、カラスの数が増えれば増えるほど、他の野鳥の卵やひな等を捕食する可能性が高くなるのです。

◆問題2 増え続ける人への被害

また、都市部のカラスにより様々な問題が身近なところで起こっています。

  • 襲われた、威かくされた
  • ごみ集積所の生ごみを食い散らかす
  • 羽音や鳴き声が騒音となる
  • ごみ集積所やねぐらとしている樹木の周辺が糞で汚れる
    さらに、カラスと人が共通に感染する可能性のある病原菌についても懸念する声があります。

ここ数年をみると、都内の公園等で観察される都市部のカラスが急激に増加しており、ごみ集積所のごみが荒らされるなど、街の美観を損ねるようなカラスによる被害が目立っています。
また、カラスの繁殖地域が広がってきた結果、繁殖時期に人が襲撃される機会が増加しています。さらに、カラスがいる公園等では、カラスと人の距離が縮まって、子どもの持っている食べ物を奪うなどの例も報告されています。

2 どのようにカラスに関わっていくか

2-1 カラスは野生動物

カラスはペットでも家畜でもなく、都市に生きる野生動物です。しかし、東京のカラスは、自然のエサよりも人の出す生ごみ等を主なエサとしています。さらに、最近では公園等で人が餌付けするような光景を見ることもあります。これらは、意識するしないに関わらず、人がカラスにエサを与え続けてきたことを意味します。その結果としてカラスが異常に増殖し、人とカラスとの距離が縮まり、様々なあつれきが生じてきたのです。
本来、人と野生動物との理想的なつきあい方は、お互いが過剰に干渉することのない状態を築くことなのです。

2-2 カラスの生息数を管理する

これまでのカラスによる被害対策としては、ごみ集積所が荒らされない工夫や、人が襲われた場合の巣の撤去等、様々な取組みがなされてきました。
しかし、これまでの取組みでは、ごみの対策は都市部全域では徹底されておらず、巣の撤去は人が被害を受けた場合にのみ行われるだけで、都市全体でのカラス被害を減少させるには至りませんでした。
今後、都市部全体でカラス被害をなくしていくためには、カラス全体の生息数を管理することが必要となります。そのことを目的とした対策を総合的に講じることにより、カラスと人とのあつれきがなくなる程度の生息規模にしていかなければなりません。
野生動物の生息数を管理することについては、人によって様々な意見があることと思います。しかし、都市部におけるカラスの被害は深刻であり、それを早急に解決し、人とカラスとの共存関係を築いていくことが必要です。

森林の場合

b 都市の場合

図3 森林及び都市におけるカラスの生活の模式図
aではエサとなるのは木の実、小動物、昆虫、死骸等である。bは木の実等が少なく、死骸やごみが多い。(日本野鳥の会東京支部「とうきょうのカラスをどうすべきか第1回シンポジウム報告書(1999年)」より引用。一部改変)

3 カラス対策の基本的な考え方

緊急対策と中期対策

3-1 カラス被害を減少させるために、まず早急に効果が現れる緊急対策を平成13年度中に実施します。引き続き、3年程度でカラスの生息数が適切な規模となるような中期対策を実施します。

3-2 捕獲とごみ対策の計画的実施

カラスが増えた原因は、人が出した生ごみがエサとなっているためといわれています。この状況を改善することが、カラスの減少につながります。
しかし、単に生ごみを減らすだけでは、都内にいる多数のカラスが他のエサのある地域に移動したり、野生動物への攻撃が増すなどの弊害が懸念されます。このような弊害を起こすことなく、カラスの数を減少させることが重要となります。そのためには、カラスの捕獲とごみ対策を計画的に実施し、カラスの生息数を総合的に管理することが必要です。

4 具体的な対策

4-1カラスを捕獲する

広域的な地域においてカラス全体の生息数を管理していくために、当面、東京都が捕獲を実施していきます。その際には、都市部の特徴を踏まえて、安全確実に実施し、かつカラスの習性を利用して効率的に行っていくことが必要です。

対策1 トラップによる捕獲

ラスの捕獲には、安全で効果の高い方法として、トラップによる捕獲が有効です。都市部で1年間に数百羽のカラスを捕獲した実例もあります。
都市部のカラスのねぐらになっている場所に近接した公園等の公共施設に、捕獲トラップを設置します(図5-1)。実施にあたっては、集団行動を好むカラスの習性を利用することにより、カラスをおりの中に誘導していきます。
設置する場所の条件として、多数のカラスの行動圏にあること、エサが周辺に多くないこと、人が近づきにくくカラスが安心できること等が必要となります。

図5-1 カラス捕獲トラップの例

図5-2 カラス捕獲トラップの側面図

入口の周囲に針金が吊されており、いったん入ったカラスはトラップの外に飛び出ることができない。

対策2 巣の撤去による捕獲

カラスの全体数を効果的に減少させるために、繁殖期(4月から6月)に巣を撤去し、カラスの繁殖を積極的に抑制することが考えられます。
しかし、卵やひなが小さい時点で巣を撤去しても、カラスは再度、営巣して卵を産む場合があるので、実施時期についても検討することが必要です。

対策3 複合的な捕獲の実施

カラスの捕獲にあたっては、トラップによる捕獲、巣の撤去による繁殖の抑制などを季節によるカラスの生態や行動にあわせて行うことが有効です。特に冬季はカラスが群れで行動することが多くなり、また自然界のエサが少なくなることから、ごみ対策の強化と連携して捕獲を実施することが効果的です。

4-2エサを断つ

カラスのエサとなる生ごみを断つためには、徹底したごみ対策を実施しなければなりません。
現在、区市町村の収集対象となっているごみ集積所は、区部で約27万か所、多摩地域で約10万か所あります。これらすべての場所でカラスに生ごみを取らせない対策を講じていくことが必要と考えます。

対策2 巣の撤去による捕獲

  1. 収集方法の改善(夜間収集、戸別収集)
    飲食店等から多くの生ごみが出されている繁華街では、カラスによる被害が目立ちます。このような地域では、夜間にごみを収集し、カラスにエサをとられないようにすることが効果的です。
    夜間収集は、都市の景観面に効果をもたらすことも期待されます。夜間収集を拡大するためには、ごみの排出者に協力を求めるとともに、収集・運搬や清掃工場等における受入体制の整備が必要です。
    これに加えて、家庭のごみについては、収集直前にごみを出す方式や戸別収集など、地域の特性に合わせた手法を展開していくことが必要と考えます。
    さらに、公園等公共施設については、ふた付きのごみ箱等、カラスにごみを荒らされない工夫も必要です。
  2. ごみ集積所の工夫(カラスよけネット、カラスよけグッズ等の普及)
    ごみ集積所におけるカラス防除用具として、カラスよけネットや固定式の折りたたみケースなどがあります。区市町村が地域の実状に応じて方針を定め、ごみ集積所のすべてに対策が講じられていくことが期待されます。
    さらに、様々なカラスよけグッズ(カラス模型等)やカラス対策について、都民が情報を共有できるようなしくみ作りも大切です。
  3. 「ごみポリス」の検討
    地域のごみの出し方を管理するために、ごみ集積所のマナーを向上させ、カラス被害をなくすための指導員(ごみポリス)の導入を進めることも、有効な手段の一つと考えます。行政、NPO、町内会及びボランティアによる実施など、様々な方法が考えられます。

対策5 ごみを減らす

(1)生ごみの減量

これまでも資源の有効活用の視点から、ごみの減量が進められてきましたが、カラス対策の視点からは、特に生ごみの減量が効果的と考えられます。そのためには、食材をむだにせず使い切るような調理方法の工夫も必要です。

(2) 生ごみのコンポスト化推進

生ごみをコンポスト化して量を減らすことも有効な方法です。家庭用生ごみ処理機の購入に際しては、区市町村が助成を行っている場合があり、そのような情報を住民に広く周知することが期待されます。
また、小規模な飲食店等に対しても、残飯や野菜くずなどのコンポスト化推進を提案します。

対策6 エサをやらない

これまで述べてきたように、カラスを含めた野生鳥獣等にエサを提供することは、生態系を狂わせる原因であると考えられます。したがって、都市部で著しく繁殖したカラスやハト等を対象に、次のような基本方針を持つ条例の検討を提言します。その際には、宣言や運動によって目的が達成できるかどうかについても、検討を進めていくことが必要です。

(基本方針)

  • 現在の都市部におけるカラス等の異常繁殖とこれに伴う環境への様々な悪影響に対処するため、カラス等にエサを与える行為とエサとなる食物を漫然と放置したり、投棄する行為を禁止する。
  • 人とカラス等との間に距離を保ち、もって人とカラス等との適切な共存関係の維持に資するものとする。

ごみ集積所に集まってきたカラスの様子

5 着実な対策の実施に向けて

5-1 「協力」がキーワード

都市部におけるカラス問題は、私たちの生活そのものが生みだしたものです。カラスによる被害を減少させるためには、都民、事業者、行政が協力・連携することが重要です。

5-2 都民及び事業者のみなさんへ

カラス問題を解決していくためには、都民及び事業者の協力が不可欠です。一人ひとりがカラス問題を考え、問題意識を持って行動することが解決に向けた近道です。特に次の三点への取組みが重要と考えます。

  • カラスに取られないようなごみの出し方を徹底する。
  • 生ごみの量を減らす。
  • カラスにエサをやらない。

5-3 区市町村へ

地域住民をカラスの被害から守るには、地域の実状にあった対策が必要です。ごみの問題をはじめ、カラスの被害を減少させるために適切な対策を取ることが期待されます。

5-4 東京都の役割

カラスの行動範囲は、区市町村の行政区域を越え広範囲におよぶ場合があります。そのため、ある特定の地域でのみカラス対策を実施しても、問題の根本的な解決になるとは限りません。
東京都は、カラス対策のために自ら対策を推進するとともに、都民、事業者、区市町村及び近県等との連携が進むように、次のことに取り組んでいく必要があります。

  1. カラスに関する調査
    施策を効率的、効果的に実施するには、カラスの生息数、食性、動物由来感染症等に関する調査を行うことが必要です。
  2. 他の自治体との連携
    既存の会議等を利用して、区市町村及び近県等に対しても、東京都のカラス対策への取組みについて理解と協力を求め、連携していく必要があります。
  3. 情報提供
    都民や関係機関が一緒になってカラス対策に取り組むためには、情報を共有することが必要です。そのために東京都は、カラス対策のホームページ、広報誌など様々な手段を用いて、積極的に情報発信を行っていきます。
    さらに、学校教育の場でカラス問題を考えたり、カラス対策グッズ等をPRする場を創設するなど、都民の理解を深めることも必要です。
記事ID:021-001-20231206-008446