小笠原諸島の植生回復事業
ノヤギの排除と植生回復
小笠原では過去に導入されたヤギが野生化して過度に繁殖し、小笠原の固有の植物などが食害を受けてしまった島々があります。植物が食い荒らされることにより、土地が裸地化し土砂が流出して鳥類の繁殖やサンゴなどの海洋生物に影響を与えているほか、景観も損なわれてしまいました。
媒島のノヤギと裸地化した土地(1998年撮影)
父島のノヤギ
こうした被害を食い止めるため、東京都は、聟島(むこじま)列島の聟島、媒島(なこうどじま)、父島列島の兄島、弟島などでノヤギの排除と植生の回復を図る事業を進めてきました。これらの島でのノヤギの排除は平成22年度で終了し、平成22年度からは新たに父島で根絶に向けた本格的な排除事業に取り組んでいます。
ノヤギの排除を終えた島々では、希少固有種を含む植生の回復が見られています。アホウドリ類の繁殖数が増加した島もあります。しかし、ノヤギの採食によって抑制されていたタケやササ類、あるいはギンネムやモクマオウなどの外来植物が繁茂するという状況が生じています。そのため、外来植物の増加を抑え、在来林の拡大を図ることを目標に、除草剤の樹幹注入による立枯らしや稚樹の引き抜きにより、外来植物の駆除作業を行っています。また、植生の回復は、土壌流出や裸地化など被害の大きい媒島では土壌流出防止や緑化に取り組んでいます。
父島でも事業の効果でノヤギの数が減ってきています。父島でもノヤギがいなくなると、外来植物の勢力が増すのではないかと懸念が出ており、あらかじめその対策を想定しておく必要性があります。
外来植物駆除作業(兄島)
ノヤギ排除後に回復したウラジロコムラサキ(兄島)
島面積(ヘクタール) | 開始年度 | 終了年度 | 期間 | 排除数合計(頭) | ||
---|---|---|---|---|---|---|
聟島列島 | 媒島 | 137 | 平成9 | 平成11 | 3年 | 417 |
嫁島 | 62 | 平成12 | 平成13 | 2年 | 81 | |
聟島 | 256 | 平成12 | 平成15 | 4年 | 940 | |
父島列島 | 西島 | 49 | 平成14 | 平成15 | 2年 | 41 |
兄島 | 787 | 平成16 | 平成19 | 4年 | 387 | |
弟島 | 520 | 平成20 | 平成22 | 3年 | 302 | |
父島 | 2,379 | 平成22 | 継続中 | 8年以上 | 3,080 |
南島における植生回復
南島では、観光客の過剰な利用により植生が損なわれました。南島は、小笠原諸島父島の南西約1kmに浮かぶ長さ約1.5キロメートル、幅約400メートルの小さな無人島です。石灰質の土地が隆起・沈降してできた世界的にも珍しい沈水カルスト地形の美しい島で、特に外海とトンネル状につながる扇池は、扇の形に開いたコバルトブルーの海と白い砂浜が人気の観光スポットです。 また、周辺海域はクジラやイルカが回遊する場所でもあります。
扇池
ラピエ(石灰質の奇岩)
しかし、このような自然の美しさ・豊かさを求めて多くの観光客が訪れた結果、島の植物が踏みしだかれて赤土がむき出しになり、ラピエと呼ばれる石灰質の奇岩が削られ、さらに人に付着して運ばれた種により移入植物の分布が広がるなど、自然環境への悪影響が出ていました。
東京都は、2002年からこの希少な自然を保護し、失われた植生などを回復する事業に取り組んでいます。
南島の植生回復の方法
小笠原の希少な自然を保護・回復するために、次のことを行っています。
- 南島の利用は、「一日の入島者数の制限」「ガイド付の入島」「決められた自然観察路の利用」などの決められたルールの下で行っています。
東京都でのエコツーリズム - すでに植生が破壊され裸地化している箇所については、失われた植生の回復を図っています。
- 人に付着して持ち込まれたと思われる移入植物の除去を行っています。
- 上記の利用方法や作業が適切かを検証するために、継続してモニタリング調査を行っています。
植生回復作業の具体的内容
植生回復作業の具体的内容は次のとおりです。
- 裸地や踏圧を受けて植生が破壊されている箇所を対象に、土壌浸食・流出防止対策や島内の芝生の移植などによる植生の回復作業を行っています。
- 自然観察路の裸地化した場所の一部に、これ以上の踏圧による植生の被害拡大を防いで植生の回復を図るため、試験的に島内の転石を飛び石状に設置しています。
- 人力による移入植物の除去作業を行っています。
赤土が流出していた過去の状況2001年5月
植生回復事業の実施状況2002年7月
対策後6年目2008年5月
南島17年間の自然環境モニタリング調査のまとめ報告書概要版2014年3月(PDF:18,885KB)
兄島に侵入したグリーンアノール対策
グリーンアノールは緑色をした美しいトカゲで、アメリカンカメレオンとも呼ばれ、ペットとして流通していました。父島には1960年代にグアム島から、母島には1980年代に父島から持ち込まれたと考えられ、今では父島と母島に広く生息しています。国の外来生物法で特定外来生物に指定されています。グリーンアノールによる捕食により、父島や母島では固有昆虫類が壊滅状態にあることがわかってきました。
グリーンアノール
父島の北に位置する兄島は乾燥した気候に適応して進化した数多くの固有植物からなる乾性低木林や固有の昆虫等を擁する世界自然遺産の核心となる地域です。平成25年3月にその兄島でグリーンアノールの侵入が初めて確認されました。調査の結果、兄島南部にアノールの高密度の生息地域があることがわかりました。兄島への侵入時期は不明ですが、既に100ヘクタール以上の範囲に分布していたことから、侵入して数年から十数年が経っていたとも考えられています。
世界自然遺産科学委員会からの提言もあり、兄島での緊急の対策が必要となりました。平成25年度から環境省を主体として関係機関が連携して、「生態系保全のためのグリーンアノール防除計画」を基に、高密度地域で粘着トラップによる捕獲や移動を遮断する柵の設置、広域の分布調査などが行われています。平成29年5月末には6万個を超える粘着トラップを設置しており、これまでに約27,000個体のグリーンアノールを捕獲しました。在来種のトカゲや昆虫類などがトラップで混獲されていることも課題ではありますが、今はグリーンアノールの根絶が第一という考えです。
アノールトラップ
グリーンアノールの生息密度をある程度低減できており、現状では希少種は減っていません。平成26年5月には兄島中央部の拡散防止柵(Bライン、約3.0キロメートル)を越えた北側でグリーンアノールが確認されました。確認地点周辺で捕獲を進めていますし、今のところさらに北側での発見はありません。分布面積は最外郭を結ぶ範囲で約220ヘクタールです。
都は兄島北西部での虫媒花植物と訪花性昆虫などの保全を目的として、北西部への侵入を抑える拡散防止柵(Cライン、約2.4キロメートル)の設置を平成28年度から進めています。トカゲ類の遮断する柵の設置は小笠原が初めてで、参考事例はありません。母島で希少なオガサワラシジミをグリーンアノールの捕食から守るために、平成20年に柵が設けられました。兄島のBラインなどでは、それを改良した柵を設置しました。吸盤のついた足を持つグリーンアノールでも滑るようなテフロン素材を使うこと(通称アノールスベール)や電気テープによるショックを与えることによって、柵を超えられない工夫をしました。東京都では、それらを参考にして、台風などの強風に耐える構造、柵上部を直角に折った構造(アノール忍び返し)、グリーンアノールが樹上から跳躍、飛び降りをする条件を考慮して、柵のまわりの植生を伐開する範囲などで改良を行っています。
グリーンアノール拡散防止柵兄島Cライン
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このページの担当は自然環境部 緑環境課 自然公園計画担当です。
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